Q隣地との境に境界杭がなかったため測量をしたところ、お隣の
 家の屋根が5センチ位越境していることがわかりました。
 隣同士で揉めたくはありませんが、このまま放っておくというのも釈然
 としません。できることなら越境している部分をお隣の負担で撤
 去してもらいたいと思うのですが、可能でしょか?



法律は、むやみやたらな権利の行使を認めません。民法は「権利の
 濫用は之を許さず」と定めています。



 所有権という権利は、もともとその完全な使用・利用を妨げる他人
 に対しては「妨害排除」を請求できます。



 土地所有権も同じで、土地の使用や利用を何の権限もなく他人が
 妨げるのなら、これに対して妨害の排除ができるのです。



 そして、土地は境界いっぱいまでこちらの所有権ですから、境界
 いっぱいまで使用・利用ができるはずのものであり、したがって
 境界を越えて相手が建物を建てたりすれば、そのために使用・利用
 できなくなったところについて、妨害の排除が請求できることにな
 ります。



 この理屈でいけば、たとえ5センチの越境であろうと数メートルの
 越境であろうと越境は越境であり、車が越境して駐車していることも
 10階建のビルの端が出っ張っているのも同じことです。



 そこで、たとえ数センチでもビルが越境しており、その妨害を排除
 するためには、ビル全体を壊さなければならないとしても、妨害排除
 はできるはずです。



 しかし、社会的にみますと、わずか数センチの土地を回復するために
 何億円もするビルを取り壊すのは、いかにも妥当ではありません。



 そこで、こうした場合に出てくるのが「権利の濫用」という考え方です。



 いくら権利があるといっても、そんなことまで請求することは許され
 ないということです。



 民法は、「権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実に之を為す
 ことを要す」という定めがあります。



 信義誠実の原則と呼ばれるもので、この紛争が片付けば二度と顔を合わす
 こともないという場合ならいざ知らず、隣同士で毎日のように顔を合わせ
 るわけですから、こうした信義と誠実にのっとった解決を取るのが良いの
 ではないでしょうか。



 今回の場合、越境の程度も重大ではありませんので境界確認したことを
 記す書面に署名押印してもらい、併せて「越境は現建物が存在する間は
 認めるが建物を建て直す際には確認した境界線を越境しない」旨の確認書
 を取り交わすことで、解決を図るのが望ましいでしょう。