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2024-12-06

趣味

壁のカレンダーがとうとう十二月になった。
一年なんてあっと言う間という言葉をこの時期になると
よく耳にするが、まったくそのとおりだ。

とはいえ、このままだと天国に行くのも時間の問題・・・も困る。
まだまだやりたいことが一杯あるのだ。

たとえ全部が実現できなくても決めた目標に
向かっていく気持ちは失いたくない。

そんなに自分を追い込んでよく疲れないね。
やれたらやる、やれなかったらしょうがない。
それでいいじゃない。泰然自若の妻はあっけらかんと言う。

気楽だねぇ、長生きするよと言うと
「何言ってんの。わたしだって考えているんだから」
と反論する。

だが、何を考えているかは妻の口から出てこない。
ひょっとしたら何も考えていないのでは(笑)

性格も考え方も違えば趣味もまるで違うわたしたち夫婦。
釣りが好きで海を見るだけでワクワクするわたしと
落ちたらどうしようと心臓がバクバクする妻。

アウトドア派で海辺でバーベーキューでもしてキャンプが夢だったわたしと
旅館で温泉に浸かりゆっくりしたいという妻。

釣り具店で欲しい竿の値段を見て溜め息をつくわたしと
欲しいと思ったら値札を見ずにレジに直行の妻。

あゝこうも対照的なふたりなのによくぞ六〇年近くもったと
感心する(継続中)

だが、最近、ふたりに共通点ができた。
園芸である。

花が好きな妻はわたしの趣味の釣りにまったく興味を示さない。
わたしも花を見ても楽しいとも思わないし知ろうとも思わなかった。

ところがである。
春になると新しい花を植えるため古い土を
新しいふかふかの土に入れ替えるのだが
年中、腰に湿布を張っている妻は中腰の作業が辛そう。

それを見ていたらほっておけなかった。

「やってやるよ。まかせとけ」
車からトランクから長靴とシャベルを持ち出し妻と入れ替わる。

土を掘り起こし古い根っこを取り除く。
一時間もあれば終わると思っていたが、これがけっこう大変で
終わるまで四時間かかった。

疲れたけど不思議と心地良かった。

温かいコーヒーを飲み一息つくと昔のことを思いだした。

十代の頃、一時期だが土いじりが楽しいと思うことがあった。
高校一年のときだったと思う。
それまで住んでいた古いボロ家から一軒家の借家に引っ越した。
その家もそれなりに年数が経っていたが庭があった。
けっして広くはなかったが花を植えるには十分だった。

ただ、前の住人が手入れをしておらず荒れ放題だったので
まずは整地をしなければならない。

翌日から学校から帰ると庭を耕すのがわたしの日課になった。
パートから帰った母はそんなわたしを笑顔で見守るが
手伝おうかとは言わなかった。

近所の人がこれを混ぜるとよく育つよと鶏糞をくれた。
臭かったから捨てようとしたら
「親切を無下にしたらいかん」と母に叱られた。

後日その人にお礼に挨拶にいったら
「動物由来の肥料は通気、排水、保水にいいから」と教えてくれた。

言われたとおりに混ぜ込んだあとはしばらく土を寝かせ
その後、少ない小遣いで買った花を植えた。

園芸もなにも知らない高校生が植えた花は期待を裏切らない美しさに育った。
いま、こうして土の入れ替えをしていて土づくりがいかに大切かを思い出した。

翌日、妻とホームセンターに行くと店頭にはカラフルなパンジーや
ビオラが所狭しと並んでいた。

これから来年の五月ごろまでの長い間、花が楽しめるうえ
値段は一株九八円と安い。

グランドカバー用に植えたタピアンが枯れたから
その後釜にこれを植えたいと妻が言う。

花の名前には詳しいが土づくりは無頓着で知識もない妻。
土のことはわたしがやることになった。

根っこを取り除いた土は雨で酸性になっているため
石灰を混ぜ込みアルカリ性に変える。

一週間後、さらに水はけを良くするため腐葉土と赤玉土を
全体に混ぜ込んだ。

「詳しいのねぇ。どっこから仕入れたの、そんな知識?」

素直にありがとうと言えばいいのに・・・
妻の言葉に少々イラついたけどいまは土づくりが楽しい。

植えるときは、きれいに咲いてねと花に声を掛けると
花はちゃんと聞いてくれるの。ただ植えるだけではダメよ。

意味不明な妻の言葉は聞き流し、黙々とパンジーを植える。
秋の日はつるべ落とし。
日に日に暮れるのが早くなり全部植え終わったらあたりは暗くなっていた。
このぶんだと園芸にハマりそうだが、園芸では先輩格の妻の前では
知識をひけらかすのは止めとこう。