土地が足りない その1

数年前のことです。
以前、土地を買っていただいたお客様の遠藤さん(仮名)からお電話いただきました。

遠藤さんは、定年退職後、夫婦水入らずのんびり暮らせる土地を・・・ということで
郊外で土地を買っていただいた方です。

「米本さん、元気かね?あのときは世話になったなぁー。おかげさまでいい家ができたよ。
家内と二人で庭弄りを楽しめるのがなりよりでね。ところで、きょう電話したのは
ほかでもないんだ。
以前、私が勤めていた会社の同僚のことなんだがね、『家を買い替えをしたい
けれど、知っている不動産会社がないからだれか紹介して欲しい』って言ってきたんだよ。名前は野田(仮名)って言ってね、いいやつなんだ・・・
米本さん、頼めるかい?」

そんなありがたいお話、断る理由などどこにもありません。

さっそく野田さんに連絡し、後日、ご自宅へ訪問することをお約束。

住所はあらかじめお聞きしておいたので、住宅地図で位置が確認できました。
どうやらかなり住宅が密集しているところのようです。

「こんにちわ、遠藤さんからご紹介いただきました米本不動産ですが・・・・・」

「お聞きしています。悪いね、わざわざ足を運んでいただいて、どうぞ上がって
ちょうだい」

はじめてお会いした野田さん、年のころで50歳半ば位でしょうか。
ひとなつっこい笑顔が印象的な方です。

ひとしきり、今回の紹介者である遠藤さんのよもやま話で盛り上がりましたが
気がつけばすでに30分以上経過。

いかんいかん、きょうは世間話をしにきたわけではありません。
切りのついたところで、いよいよ本題です。

お話しを伺えば、次に買う家はすでに決まっており、その購入資金に当てるため
今住んでいるお家を売りたいとのことです。

売却についての説明や、野田さんからの質問にお答えし、媒介契約書に署名を
いただいた時には、外はもうすっかり日が暮れておりました。

これでは、境界やら物件状況など調べることもできず、後日改めて訪問することにしました。

翌日、明るい時間に野田さん宅へ訪問し、さっそく調査の開始です。
きょうは時間がたっぷりあります。

この辺りは道路幅が狭いうえに家が密集している地域です。

「野田さん、境界って確認したことあります?」

「境界? たぶんあると思うけどなぁ」

自信なさげな口ぶりです。
さっそく敷地の四隅を確認してみることにしました。

南側のお隣りさんは、建て直されたのか比較的新しい家です。
野田さんの敷地と南側の敷地はブロック塀で区切られていましたので、その
周囲を探してみましたが、境界はどこにも見当たりません。

「野田さん、この塀はだれが建てられたのですか?」

「お隣さんです。家を建て替えられたときに、いっしょに工事されたんですよ」

「じゃあ、そのときには境界があったんですね?」

「さあーどうかなぁー、そんなこといちいち気にもしていなかったから」

「気にしていないかった? そんなぁー・・・・・」

 

 

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