この越境問題は、じっくり腰を据えてお隣りと話し合うより方法はありません。
前回の測量立会いから早くも一週間が過ぎました。
きょうは、お隣りに売主の野田さんとわたしの二人で訪問する日です。
あの日、お隣りの方は勝手に立会いの途中で帰ってしまったことをあとで、
野田さんに謝ったそうです。
その際、野田さんが機転を利かせてくれ、再度話し合う機会をお隣りの方に
約束を取り付けてくれたのでした。
きょうは、冷静に話し合えればいいんですが・・・
「こんにちは。米本不動産ですが」
「どうぞあがってちょうだい」
お隣さん、きょうはご機嫌よろしいようです。
「さっそくですが、例の塀の件なんですが」
「あぁ、わかっている。あれからうちも女房と話しをしたのだが、やっぱりうちは
越境なんかしていないぞ」
「でも、お宅の土地が5坪多くて野田さんがその分少ないんですよ」
「あんたなぁー、自分とこの土地が足りないからって、それをこっちに押し付け
られても困るんだよ! 昔から塀はあそこにあったんだよ、だから そこが境界
なんだよ。言いがかりもいいかげんしてほしいね」
「いま、言われた塀の位置が問題なのです。おそらく当時から 塀は越境していた
と思いますよ」
「野田さん。それならそうと家を買ったときになんで、うちに言わなかったんだ?」
「野田さんも知らなかったんですよ。当時、仲介に入った不動産会社の方から
塀が境界だと言われそれを信じていたのです」
「野田さん、米本不動産が言っていることほんとか?」
「うん、俺も家内も境界のことなんて全く頭になくてさ・・・」
「そう言われてもなぁ・・・とにかく、うちは元の位置に建て直した、それも
うちの お金でね。そういうことなんだよ、野田さん!」
結局、その日は何の進展もありませんでした。
このままでは野田さんの土地は5坪も減ることになります。
お隣り同士って、いったんこじれるとたいへんです。
そうだ、今度はお隣りの家を建てた建築会社の方にも立ち会ってもらおう、
おそらく、工事のとき現場の寸法をあたっているはずです。
そのあたりの事情を聞いてみればなにかわかるかもしれません。
しばらく冷却期間を置いて、再びお隣りさんを訪問してみることに。
平日の昼間でしたからご主人さんはお留守でしたが、代わりに奥さんが対応
してくれま した。
奥さんもご主人ほどではありませんが、なにしに来たの?・・・そんな感じでした。
とはいえ、お隣りの方もいままで野田さんとはそこそこお付き合いはあったわけ
ですから、このまま、あやむやにとは考えていないでしょう。
とりあえず、塀を建てたときの建築会社さんにも次回の話し合いの席に立ち会って
いただくようお願いをしてきました。
もし、次回の話し合いがうまくいかなければ・・・
そんな不安がちらっと頭をよぎりましたが、とにかく頑張るしかありません。
話し合いを明日に控えた夜、野田さんを訪問することに。
事前の打ち合わせです。
あすは、野田さんにも頑張ってもらわなければなりません。
ところがです。
「米本さん、わたしたちどうすればいいかねぇー。あれ以来、お隣りさんとも
気まずくなってしまって。かといってお隣りの言うことを認めるわ けにもいか
ないし・・・でも、考えてみたら、この家を買ったときからすでに越境されていた
わけだから、もともとそれだけの土地だったと思えばあきらめもつくのかな」
野田さん、すっかり弱気です。
お隣りさんは思いっきり言いたいこと言っているというのに。
「野田さん、気持ちで負けてたらお隣りの思うとおりになってしまいすよ」