「米本さんの言うことはわかるよ。 でもね、こんな話し合いがこれからも続くかと
思うと胃が痛くなるよ。 こんなこと言ってはなんだが、もし明日の話し合いがこじ
れるようなら、あきらめようか と思うんだ」
「あきらめるってどういうことです?」
「うん、最悪、あの5坪は戻らなくてもいいかなって・・・ そうすればお隣りも境界
の立ち会い書にサインするわけだろう? 話の展開次第では、米本さんからそのこと
を言い出してもらっていいから」
野田さんの表情には疲労の色がありありと。
「そうですか・・・ でも、言うべきことは言いましょうよ」
「う~ん、そうだなぁ・・・いずれにしても最後は米本さんにまかすよ」
「わかりました」
翌日、お隣りさんと再びの話し合いです。
約束の夜7時に野田さんとともにお隣りさん宅へ。
「こんばんわ米本不動産です」
きょうは、話し合いに加わってもらうようお願いした建築会社の方もきています。
「お聞きしたいのですが、工事の前に境界は確認されましたか?」
と、まずは私から建築会社に質問してみました。
「もうだいぶ前のことで、よく憶えていないなぁ。現場はたくさんあるんからね」
「たくさんあろうがなかろうが、どこの建築会社さんでも確認していますよ」
「確認していないなんて言っていないだろう!ただ憶えていないっているんだよ」
建築会社さん、はやくもけんか腰です。
「建築確認の配置図はどうなっているのですか?そこに土地の寸法が記入してある
はずですが」
「そんな書類、どこにあるかわからん!」
「おとうさん、たしかそんなような書類、タンスの中にあったはずよ」
となりの奥さん、奥の部屋へ書類を探しにいきました。
「これかしら?」
奥さんが広げた図面は、まさにそれでした。
建て直しする際の建物図面で、配置図には敷地の寸法が記入してあります。
そこには、本来は土地の間口が10mのはずなのに11mと書かれています。
「この寸法はだれが測ったのですか?」
「さぁー」
なんとも無責任な建築会社です。
境界確認もせず塀を基準にして測ったに違いありません
。
結局、野田さん、お隣りの方、建築会社、だれも境界を確認しないまま今日まで
来てしまったわけです。
その後も話し合いは続きましたが結論は出ませんでした。
「米本さん、もう今日はこれで終わりにしよう。 もうちょっと過去の事よく調べて
みるよ。 それに正直言うと、あれからいろいろ考えてみたんだ。野田さんとは親し
かった わけではないが、 お隣り同志でいつまでも揉めているのは精神衛生上よくな
いしな。もういちど測量屋さんから説明してくれるよう頼めるかい? 。ただ仕事の
都合もあるから日程はこちらから連絡するよ。どっちに連絡すればいい?」
「米本さんに連絡して下さい」、と野田さん。
思ってもいない展開になりました。