スズは元々が野良だったせいか、家に来た当時は警戒心が強く、近寄ると逃げて狭い場所に隠れるような臆病なネコでした。
先住ネコのモモには遠慮して一定の距離を取り、食事のときもモモが食べ終わるのを待ってからと自分の置かれている立場をわきまえていました。
しかし、そんなしおらしい態度も束の間で、慣れてくると本性を現したのか、モモを非友好的な態度で睨みつけるようになりました。 性格の優しいモモはスズのその振る舞いが嫌で、やがてスズが近寄らないソファの上いいることが多くなりました。
調子に乗ったスズは、モモの通り道を塞ぐように通せんぼしたり、ガンをつけたりと可愛くありません。
あゝこんなネコ、拾うじゃなかったと・・・と嘆いても後の祭り。今更どうしようもありません。 しかし、そんなスズにも転換期が訪れました。
先住ネコのモモが病死し、独りぼっちになったのです。 ネコは一匹でいても寂しさを感じないといわれますが、モモがいなくなってからは徐々に人に甘えるようになりました。 臆病な性格にも拍車がかかり、家のインターホンがピンポーンと鳴っただけで背を低くしベッドの裏でフルっています。
そんな姿を見ているとやはり可哀そうになり、優しい声で「スズちゃん。おいでみんな帰ったから大丈夫よ」と声を掛けるわたし。 でも、親の心、子知らずではありませんが、わたしがどれだけ呼んでも出てきません。
「ほっとけよ。そのうちに出てくるわ。それと、お前のその猫なで声、気持ち悪い」と夫は冷たく突き放します。 スズよ、あんたは夫に見捨てられた!
夫の言葉にマズイと思ったかどうかはわかりませんが、しばらくすると2階からニャーニャー鳴きながら階段をトントンと下りてきました。 ネコにとって飼い主は、ご飯やトイレの世話をしてくれる大事なパートナー。 見捨てられては困るとばかりにわたしの足にスリスリしたり、コテンと横になって腹を見せたりと媚びてきます。 その接待とも思えるようなお愛想は、スズなりの生きる術かもしれません。
性格の悪い人間ほど長生きするというけど、わたしよりスズの方が長生きしそうです。。