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2025-08-08

高値査定という誘惑

共働きのAさん夫婦にとって、駅から徒歩5分の立地は何ものにも代えがたいものでした。

結婚当初からマイホームが夢だった奥さんは、「賃貸でいいよ」と言うご主人を説得し、交通の便利が良い駅前のマンションを新築で購入しました。

奥さんは将来のことを考えて4LDKが欲しかったそうですが、ご主人の「ローンで無理をしたくない」の一言で価格の安い3LDKを選びました。

「あのとき私がもっと主人に強く言わなかったことが残念でたまりません」
後に奥さんはそう嘆いていました。

と言うのも、住み始めて10年が経ち、子供たちは大きくなりそれまでの間取りではのびのびと暮らすことができなくなったからです。

まだ住宅ローンがたくさん残っていますが、このまま住み続ける訳にはいきません。

駅からは遠くなりますが、子供たちのことを考え、郊外の一戸建を購入することにしました。

それまで住んでいたマンションは利便性が高く、購入当時は資産価値が下がらないと言われていました。

しかし、何棟も建ち並ぶ戸数の多い大規模マンションですから、Aさんと同じように買い替えをする人も多く、常にどこかの部屋が売りに出ている状態です。

それが影響しているのでしょうか、資産価値が下がらないと言われたにもかかわらずインターネットで見る価格は買ったときの価格を下回っていました。

新しく購入する一戸建は、もちろんローンを組む予定ですが、それには今のマンションのローンを完済しなければなりません。

さっそくAさんは数社の不動産会社に査定をお願いし、見積もりを出してもらいました。

その中から特に高い査定価格を出してくれた不動産会社は、全国に販売網があり、担当者の「売却力には自信があります」という力強い言葉も相まって、その不動産会社と専任媒介契約を結びました。

販売開始当初は出たばかりということもあり、すぐに2組の内覧希望がありました。

担当の方は「知名度の高さは信用のバロメーターです。不動産は高価な買い物、今、安心して取引ができる大きい不動産会社を選ぶ人が増えています」自信満々。

まさにやり手営業マンといったところですが、言葉の割りになかなか決まりません。

最初のうちこそ内覧がありましたが、その後はいたずらに時間だけが経過していきます。

販売を開始して数ヶ月が経ちました。
その後も相変わらずで、やがてAさんはこのままでいいだろうかと不安になってきました。

ご主人は「半年経っても売れないのはおかしい。地元の不動産会社に替えたらどうか」と言います。

そこで、媒介契約更新の前に不動産会社にそのことを伝えたところ、担当者は「全国規模の当社で売れないのだから街の小さな不動産会社で売れるはずがない」と反論します。

そればかりか売れない理由を価格のせいにして、価格を大幅に下げるか、もしくは買取り業者に買い取ってもらってはどうかと提案をしてきたそうです。

買取り業者は現金で買ってくれるから、一般の方のようにローンで契約が取り消しになる事が無いこと、部屋が汚れた状態で修繕が必要な個所があっても、買主が不動産業者なので後々トラブルになることもないから安心と担当者は買取りを強く勧めてきます。

話しを聞いた夫は、最初は乗り気ではありませんでした。

しかし、元来が面倒なことが嫌いな性格もあり、結局、この話に乗ってしまい、相場よりも格安な価格で買い取り業者に売却することになったのです。

後に、あの時の査定価格はいったい何だったのかと奥さんは嘆いておられましたが、今となっては後の祭り。

高く売ってくるはずが結局は買取り業者に買い叩かれ、予定より多いローンを組まざるを得なくなりました。

不動産は大切な財産、少しでも高く売りたいのが人情です。

査定価格が一番高い会社に依頼したAさんの行動は決して責められるものではありません。

問題は査定が高い会社が本当に高く売ってくれるかどうかです。

バブル時のように購入希望者が次から次へと現れ、売却物件が希少価値を増す状況であれば、運良く高値売却ということもありますが、先行きのわからない不安定な時代に買い手は増々慎重になっています。

いま、インターネットのおかげで誰もが容易に相場を知ることができます。

相場とかけ離れた価格でいったいだれが買うというのでしょうか?

少しでも高く売りたいと願うなら、まずは自分の不動産と近隣の取引事例や現在売り出されている物件とを客観的に見比べてみることです。

そうすれば、売主に気に入られることだけが目的の高い査定価格に惑わされることもありません。

不動産市場では土地も家もひとつの商品です。

ある程度割り切って冷静に自分の不動産を自己査定してみてはどうでしょうか。

査定額さえ間違わなければ相場の最高値で売却できるのですから。